文化のまちづくり運営秘話

〜文化のまちづくり事業〜
小出郷文化会館はオープン初年に文化庁の文化の歴史まちづくり事業補助金を獲得しています。

これは文化庁が文化施設や文化財を活かした特殊ある芸術文化事業を支援する「文化のまちづくり事業」として全国四十施設を選定しています。

この事業は平成八年度からスタートし、舞台芸術、美術、生活文化など広い分野を対象にしています。

地方の文化会館などを拠点とする芸術文化団体の育成や芸術文化の地域間交流、地方美術館での企画、公募展の充実、国内外からの専門家などの招聘などを通じて自治体のまちづくりを支援する文化庁の肝入りの事業です。
初年度の事業費は五億五千三百万円で各地域の事業規模などに応じて約二百万円〜二千五百万円が配分され、定着性を重視するため数年間継続して実施されます。

各地域で比較的多いのは、地方の民話を題材にした創作オペラの公演や東京から芸術家を招いての技術指導、地域文化ホールを拠点としたフランチャイズ団体の育成などでした。

〜予算査定減額から財源支援団体設立へ〜

小出郷文化会館は住民参画の企画運営委員会において、「住民による文化を育む会」と館長就任時に策定した企画運営案(21世紀に向かって翔け!小出郷文化会館)、企画運営委員提案から48事業を選択し、コンセプトに合致した18事業に絞り込みます。
しかし、自主企画への予算は、査定され当初予定の年間900万から500万に減額されてしまいます。これでは、18企画をさらに半分も諦めなければならなくなります。

査定減額の理由は、所属していた青年会議所主催の奥只見銀山カーニバルにおいて、高額の利益を上げていた実績(1,000万)から事業収支の甘さを指摘されてしまったのです。

これでは「住民による文化を育む会」で検討したコンセプトを活かした充実した事業を実現することができない。と暗礁に乗り上げ、途方に暮れてしまいます。
そこで、まちづくり研究会で先進地事例で学んだ事業費を住民や企業から支援してもらう組織(メセナ)を思いつきます。元旦にお年玉企画として6人の町村長宅を一軒一軒回って事業費支援策を説明、説得します。

法人会員年会費は一口三万円100社、個人会員が一口1万円100人として、減額された400万円を補てんするサポーターズクラブ設立策です。

町村長は「集金ができない場合は、桜井館長が全責任を取れますか?」「はい、400万は必ず集める自信があります!」と啖呵を切ります。

実は青年会議所10週年ファイナル銀山カーニバル「さだまさしコンサート」おいて広告費を800万を集めた実績があり、その半分ならなんとか集められるとふんでいました。

 ブログ「さだまさしコンサート」⬇️
第10回奥只見カーニバル 28年前の難航交渉秘話の画像
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当初の予算案(18企画)通りに事業を実施することが理事会(6町村の最高決定機関)で承諾されました。元旦の営業根回し戦略が成功したのです。

その後、住民による文化を育む会のメンバーで青年会議所のOBの関○則先輩と○友○彦先輩が尽力して小出郷文化会館サポートダースクラブを発足してくれました。今もなお、お金は出すが口を出さないありがたい組織なのです。

〜大綱渡りの補助金申請〜

小出郷文化会館の新規自主事業は文化庁の「文化のまちづくり事業」に上手く合致しており、補助金申請を考えていました。

平成7年11月に恩師、町○裕氏から依頼を受けた、文化庁補助金倍増計画の成功により「文化のまちづくり事業」は文化庁新年度事業として予算化されていましたが、県から補助金申請の要綱案内が新年度になっても届かず不安がつのります。

平成8年4月26日金曜日、私はいても立ってもいられなくなり、文化庁地域文化振興課の○井課長を訪ねます。

実は昨年の11月17日、文化庁で町○氏から○井課長を紹介していただいたり、12月25日には、文化庁の「文化時報」で対談するなど面識を得ていました。
2月7日にも文化庁で○井課長と町○氏との食事会に出席し、その後、文化庁の黒塗りの公用車ですみだトリフォニーホールで開催している芸術情報プラザ見本市に同行して、全国の芸術文化活動の現状をご教授いただきました。

○井課長からは6月9日の小出郷文化会館開館記念式典にもご臨席を賜り、スタートから文化庁とのパイプが太くなり、会館としては心強いことになりました。
「新しい予算のことを教えていただきたいのです。どんな内容でいつごろ募集するのか、私たちのホールは対象になるかどうか…」
私がいいかけると○井課長は少しびっくりしたように話を遮ります。

「何もご存知ないのですね。新しい予算は「文化のまちづくり事業」といって、文化を通じたまちづくりを国として支援する制度で、今日が締め切り日ですよ。あなたのところに募集の文書は届いていないのですか?」

「届いていません」○井課長はすぐさま新潟県庁に電話をかけ、「文書はきちんと周知してほしい。小出郷はこれから申請するそうだ。そちらできちんと受け付けてくれ」と伝えてくれました。
通常は国からの補助金募集は都道府県を通して行われ、新潟県は国からの募集要綱を市町村の教育・文化担当部署に送付されています。

ですが、小出郷文化会館は新設したばかりで、6町村が共同運営する小出郷広域事務組合が建設母体だったため、県はその要綱を送付していなかったのです。

翌27日、小出郷広域事務組合に出向していた職員が、堀之内町教育委員会から行方不明の助成金要綱を見つけ出し、小出郷文化会館に届いけています。

この「文化のまちづくり事業」は最長5年間継続で支援されます。これまでは単年度に限られていましたが、これは画期的に進歩した助成金なのです。
ただし、5年間の支援を申請する場合は、5年分の計画を示す必要があります。助成額は最大で年間2,000万円といった小出郷文化会館にとっては願ってもない補助金であり、すぐさま決断して申請します。

住民による文化を育む会が練りに練ったビジョンがあり、事業アイデアは企画運営委員会で検討し具体化されていましたので、職員が3日でまとめてくれました。

これを獲得できるかどうかで育む会で作り上げたビジョンが実現できるかどうか決まります。まだまだ、大綱渡り申請は続きます…
申請するには、小出郷広域事務組合の事務局と理事会から承諾を得る必要があります。本来であれば初めに事務局にお伺いをしてからなのですが…締め切りが過ぎていたため体当たりで、一点突破全面展開するしかありませんでした。

事務局長の○川○平(退職後県会議員)は「これほど大きな予算を町村長や議会の同意なくして申請など出来ない」と難色を示します。すかさず、○川局長の年頭の訓示を引用します。

「あなたは行政改革の時代、過去にはとらわれず、変えることを恐れず、勇気を持って進もうと言いましたよね、これを申請することは、勇気がいることです。私と一緒に勇気を出して代表理事(小出町長)に行ってください」局長は最後には同意してくれました。
代表理事○阪町長は育む会のご重鎮から電話を受けて状況を把握していて、すぐさま申請者の欄に印を押してくれました。

翌日の5月1日、朝一番の新幹線で上京し、文化庁に向かいます。申請書を提出し、そこでただ1人でヒヤリング(聞き取り審査)を受けます。

その足で新幹線で新潟県庁の文化振興課に申請書を提出します。わずか5日間の綱渡り申請のドタバタ劇でしたが、この努力はやがて期待以上に報いられることになったのです。

おわり

付録

〜平成8年文化のまちづくり事業〜

1.事業の名称
 「小出郷ゆうきプラン」新しい夢、忘れかけた夢に、挑戦する勇気をあげます。

2.事業実施の趣旨
 小出郷は、四季の非常にはっきりとした豊かな自然を残しながら、高速交通網で首都圏に直結してるという条件のもとにあり、歴史的にも関東の後背地としての役割を果たして決ました。

 これからの高齢化社会を見据え、子どもたちが健やかに育つとともに、熟年世代が健やかに老いることを目的にとして、「小出郷ゆうきプラン」を実施したい。

3.事業の実施地域(実施市町村名)
 小出郷広域(小出町、堀之内町、湯之谷村、広神村、守門村、入広瀬村)

4.事業の実施期間
 平成8年4月1日〜平成9年3月31日
    (平成8年度から平成12年度継続)

5.事業の内容
(1)全国の熟年世代へ
 自分自身の文化的目標を設定することにより、健やかに老いていくためのプログラム。関東圏の後背地という立地条件を生かし、首都圏からテーマごとに小出郷を訪れ、新しい夢や、忘れかけていた夢に挑戦する人の流れを創りたい。

 企画名 
 日本画講座 
 コーラス・セミナー 
 歌い継ぐ日本の歌 他

(2)世代を越えて、ひとつのステージを
 熟年世代と子どもたちが年齢の差を越えて、 一つの目標に向かって努力することにより、 「感動」を共有するプログラム。このことを通 じて、次の世代に伝えなければならないことを伝えるとともに老いてますます輝いて生きることができる小出郷の創出を目指す。

 企画名
 劇場団育成プログラム
 ウッディ・アート
 和太鼓・セミナー
 リコーダー・セミナー 
 リトミック・セミナー 他

(3)子どもたちへ、そして世界へ
 専門家から子どもたちに指導を行っていただ くこによって、隠された可能性を磨き、もっと音楽に、舞台芸術に、その生涯を通じて
 親しんでゆくことを目的とするプログラム。

 企画名 
 吹奏楽ティーチング&クリニック
 バントやろうや
 ヤング・ピープル・コンサート
 マンスリー・レジデンス
 ピアノ公開レッスン&コンサート 他

6.今後の事業推移と未来の展望
(1)ホールをフランチャイズとする文化団体を育 成し、5年以内に劇団、吹奏楽団、バント、リコ ーダーアンサンブル、ウッディアート制作グルー プの創出、育成を図る。このことにより、当地域 に居住する場にも、生涯にわたって音楽や美術の 創造を行える環境を整える。

(2)文化をテーマとした交流人口の増加
 首都圏からの熟年層を中心とした人の流れを 作り出し、当地域の熟年層と同好の分野で交 流することによって、誰もが健やかに老いて 行くことのできる地域を創る。

(3)地方だからこそできる時間と空間の提供
 時間と空間を提供できる地方のメリットを生 かし、マンスリー・レジデンスやセミナー・ プログラムを通して、優れた舞台芸術の制作 や、優れた教師との出会いを生み出す。
 「グランドデザイン」
小出郷ゆうきプラン事業一覧」
4.アートシンポジウム
(1)まちづくりシンポジウム
5.アーネスト・アーチストリサイタル・
(1)クラシックコンサート

【文化のまちづくり事業決算】
 1.事業数
  19企画36事業65セミナーの実施

 2.事業費
  45,767,958円
3.自主財源
 広域事務組合 6,459,858円
 サポーターズ 4,000,000円
4.文化庁補助金 20,767,958円
5.入場料収入 14,569,100円
6.高額事業費ベスト3
 ①ヤングピープルコンサート 12,081,058円
     羽田健太郎&新星ポップスオーケストラ公演
②バントやろうや 6,081,478円
    上々颱風野外コンサート
③吹奏楽ティーチング&クリニック 5,521,420円
    東京佼成ウインドオーケストラ公演

コーポA&O (桜井俊幸.A&O企画)

【桜井俊幸】 魚沼市生まれ。魚沼市小出郷文化会館を18年は5ヵ月務め名誉館長。後に(公社)全国公立文化施設協会(参与)と文化芸術による復興推進コンソーシアム(東京事務所長)。全国国民文化祭総合コーデネイターなどを歴任。 【コーポA&O】 魚沼市内に5棟や駐車場を経営している。 【あんさ&おっさ】 昭和56年、桜井俊幸、治兄弟で結成したオリジナルフォークデュオです。今年8月44年目を迎える。

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