小出郷文化会館運営秘話

魚沼市小出郷文化会館の特徴はホールコンセプトを活かした自主事業を継続して展開。買公演をしないことが全国から評価されているひとつだと思います。

もうひとつは住民参画のホール運営です。いかにして住民(市民)から関わってもらうかについては「小出まちづくり研究会」と「住民による文化を育む会」の活動を通して視察研修や調査研究から学んでいます。
立派なホールを造ったものの、運営がうまくいっていない事例は「箱物行政」などと呼ばれ「文化破産」だとか「税金の無駄遣い」などと批判されていました。
当時は全国に約2,300館の公共ホールがありましたが、そのほとんど(93%)が、うまく機能していなかったのです。 

当時、日本芸能実演家団体協議会『芸能白書1999』によれば、全国に2,901館(うち公立文化ホールは全国公立文化施設協会によれば2,031館)でした。

10年単位で設置状況をみると、80年代には約700館、また90年代の前半5年間には約450館開設され、4〜5日に1館が誕生するまさに建設ラッシュ時代で、箱物行政と揶揄されていました。
そうした中で、住民や議会から認知された企画運営を行い、稼働率が70%を越えているのは、約2,300館のうち7%にすぎず、あとの93%は箱物行政だったのです。

箱物行政とは、庁舎・学校・公民館・博物館・テーマパークなどの無駄な公共施設の「建設」に重点を置く国や地方自治体の政策を批判する表現のことを言います。

恩師、町田裕氏の「劇場(箱物)を成功させるのは箱でなく人だ」の言葉が蘇ります。

俳優座を経て1960年代、草創期の日生劇場のミュージカル制作など手がけ、劇団四季では浅利慶太氏を支える舞台裏の立役者(劇団四季の代表取締役会長)として第一線で活躍していました。
1993年の全般的な公共ホールの年間平均利用日数は201日で芸術文化関係の利用が68%で音楽が3分の2で演劇・舞踊が1割強ずつ、各種大会・講演・研修等その他が32%となっています。

それでは、上手くいっている7%のホールは、どんな点でうまくいっているのか。調査・研究をした結果、いくつかの共通点(3&3の方針)があったのです。

まず一つは、市民が使いやすい利用料金が設定してあること。二つ目は、ホールの運営に住民(市民)が参画してること。三つ目がホールに明確なミッションがあることです。

企画運営についての考え方が明確で、コンセプトを活かした自主事業を継続的に展開していて、上手く運営してる7%のホールは、この三つが共通していました。
また、人という面でも共通点があります。まず施設の設置者のトップが文化行政に理解があること。次に職員が芸術文化好きで、真剣に取り組んでいること。

そして市民が積極的に関わって運営してる。これらのキーワードを、運営の参考にしようと考えていました。

当時の(社)全国公立文化施設協会の滑川常務理事からもこの3&3の方針が重要だと力説していました。 
この頃の全国の公立文化ホールの自主事業はほとんどが買公演でホール独自企画の公演は少なく、マネジメント会社のカタログから選んで公演を実施していました。

うまく運営しているホールをお手本に小出郷文化会館は、オープンから単なる買い公演ではなく、コンセプトに基づき21企画の80本を越える自主事業をプロの演奏家などと一緒になって企画・制作していました。
コンセプトを活かした自主事業は、芸術循環型プログラム(鑑賞→育成→発表)を軸に文化庁の文化のまちづくり補助金(年2,000万5年継続1億円)を活用して継続的に展開しています。

また、会館は住民(市民)が使いやすい料金設定にしています。条例では小出郷文化会館は「魚沼市民の芸術文化の向上と福祉の増進を図ることを目的にしてる」と謳っています。

ですからこの施設を使って利益を上げて儲けましょう」ということではなかったのです。
当時の町村長からお願いされたことは「多額の税金をかけて造るのだから、とにかく稼働率を上げるよう、住民にどんどん使ってもらいたい。」と言うことでした。

とはいえ魚沼地域には、各町村にそれぞれに練習や発表の場がある公民館があります。圏域面積が947平方kmもあり、魚沼市の一番端にある会館に遠距離からの住民が来るということはほとんどなかったというのが現状でした。 

このような厳しい条件の中でも「とにかく住民(市民)に使ってほしい」、議会も「高額をかけて造ったのに、閑古鳥が鳴いているようでは困る」つまり「税金の無駄遣いだと言われないように」と言う使命でした。
そこで私から「使用料が高額では住民が使いづらい」と提案し、町村長から理解していただき、安価な今の使いやすい料金になっています。

また、積極的に、多種多様な自主事業をプロデュースして、会館の稼働率アップも図ります。平成14年は大ホールの稼働率100%、小ホールでも72%を記録しています。
当時の新潟県内大ホールの利用率は新潟県民会館が91%、新発田市民文化会館が57.5%、他の会館は50%以下と全体的に低迷しています。

全国の公立文化ホールは貸館が主体で自主事業を行わない施設が多数あり、小出郷文化会館は利用率を上げる手段として積極的に自主事業に取り組み稼働率(65%→100%)をアップさせました。
また、全国の公立文化施設や文化ホールがうまく運営されていない要因のひとつに専門家がいないことが上げられます。

病院は医療機関、学校は教育機関ですが、その機関というものは、専門家が存在してこそ機能します。病院に行って医療経験のない医師がいたら恐ろしいですよね。

ですから文化機関として機能させるため幾度となく行政に職員移動させずに育成するよう提案します。当時の会館の専門職員は3人、非常勤職員を入れると4人ですが会館オープン当初から移動しませんでした。

職員は「アーツマネジメント」という専門的な能力を、人材育成講座などで学びながら企画運営の実践しながら身につけ、プロパーとして育っています。
アーツマネージメントとは、美術、音楽や演劇などの芸術活動を支援する際の方法論です。
 
芸術活動を支援する際に適切に展示方法や広報などを統一的にマネージメントすることで、より多くの人に対してより質の高い芸術に触れる機会を提供することを目的とします。

芸術の支援においては、以前は公的機関や企業を中心をした活動が多かったですが、近年では個人での活動も見られ、それに伴いアーツマネージメントの手法も多様化しています。
また、大半のホールでは音響、照明などを業者に委託していますが、小出郷文化会館の職員はそれぞれ技能ノウハウを持っていて、一級の資格も取得しています。

グレードの高いデジタル機械も職員自ら使いこなせるため、専門業者に頼まなくてよいのです。住民にとっては利用費用が安価になり、使い安い使用料金になっています。
 
舞台技術とは、「舞台照明」「舞台音響」「舞台操作」など、舞台上での演出のため劇場の設備や機器などを扱う分野のことをいいます。 
また大道具や小道具などの計画から製作を行う分野は、「舞台美術」と呼ばれ、舞台 機構や舞台操作と深く関わる分野であり、舞台技術の分野に含まれています。

他の施設にはマネジメント能力と技術能力を共にもつ一般の行政職員はほとんどいません。一般的には2.3年で移動します。そうした中、行政職員を変えなかった首長や行政の理解も大きかったと思います。

アートマネジメント専門知識や技術をもつ職員がいないと、安全の確保や舞台芸術の現場は回りません。小出郷文化会館の職員は文化機関の専門家として育ってくれました。

おわり

付録

コーポA&O (桜井俊幸.A&O企画)

【桜井俊幸】 魚沼市生まれ。魚沼市小出郷文化会館を18年は5ヵ月務め名誉館長。後に(公社)全国公立文化施設協会(参与)と文化芸術による復興推進コンソーシアム(東京事務所長)。全国国民文化祭総合コーデネイターなどを歴任。 【コーポA&O】 魚沼市内に5棟や駐車場を経営している。 【あんさ&おっさ】 昭和56年、桜井俊幸、治兄弟で結成したオリジナルフォークデュオです。今年8月44年目を迎える。

0コメント

  • 1000 / 1000