アウトリーチからのご褒美
アウトリーチとは、もともとは社会福祉の分野で、顧客の表明されないニーズ把握の手法として開発されたものともいわれいます。
平成13年度はアウトリーチ&ガラコンサート企画として、星はすばる「サロン・コンサート・シリーズ」とフランス・ガラ・コンサート「ソリストたちが奏でるフランス音楽の花束」に挑戦します。
〜 星はすばる サロンコンサートシリーズ 〜
第1回.2001.10.16.神湯温泉.入場者110人
2001.10.17.広神東小83人.広神西小39人
久保陽子(バイオリン)弘中孝(ピアノ)
サン=サース「序奏とロンド・カプリチオーソ」他
ー爽やかな秋に円熟のデュオ、名器が奏でる至上 の響きー
『アンコール曲は「アベマリア」。久保さんが長い時間をかけて楽器と対話し、一音一音練り上げてきた豊穣な音が、この曲テーマである「祈り」の感情を溢れんばかりに伝えてくれた。今ここにいて良かったと、心から思った。(M.A)
対策1.このプロジェクトのために製作した音響反射床と音響反射板をセットし、入浴場までは展示パネルを立てるなどの防音対策を施しました。
第2回.2001.10.31.池田美術館.入場者111人
2001.11.1. 浦佐小5.6年106人 後山小全校13人
白尾彰(フルート)石橋尚子(ピアノ)
ドップラー「ハンガリー田園幻想曲」他
ー遠い夜空から聴こえてくる、美しいフルートの音色ー
『 what is the most客席から驚きのため息が漏れる。目を見張るようなテクニック。けれどフルートの音色は聴衆を驚嘆させるような煌びやかなものではなく、とても優しく、柔らかく、温かい。』(M.A)
対策2.池田記念美術館や浦佐小、後山小は隣の町であることから大和町長や教育長に事前に小出郷文化会館のコンセプトを伝えると共に、あらかじめ小出郷広域の町村長からも了承も頂きまました。
第3回.2001.11.26.湯之谷村役場.入場者97人
2001.11.27.小出小6年125人.井口小5年 49人
山本正治(クラリネット)村上淳一郎(ヴィオラ)武藤よしみ(ピアノ)
シューマン「おとぎ話」他
ー深まる秋にぴったりの、いぶし銀のようなトリオー
『菅・弦・ピアノ。それぞれのもち味の違う楽器が絶妙なバランスで溶け合う。その瞬間の音色はとても温かく、心に沁みた。このサロンコンサートで生演奏に接する度に、楽器の音とはこんなにも奥行きが深く、表現力が豊かなものかと思い知らされるのだった。』(M.A)
対策3.役場の利用については佐藤村長に直接許可をもらい、段取りがスムーズなります。入場口が役場入り口なので、風除室を上手く活用し、レセプショ二ストを外にも配置して雑音防止を図りました。
第4回.2001.12.18.守門村議場.入場者73人
2001.12.19.須原小6年.125人
伊米ヶ崎小5.6年、55人
弘中孝(ピアノ)
ショパン「ピアノソナタ第2番」他
ー冬至を前に、心温まる豊かなピアノをー
『演奏が始まると音の噴水が溢れて出し、水面に波紋が広がるかのようにピアノの響きが空間を満たした。弘中さんの指や手・体の動きが音の表現に直につながっていく様子を間近で観ていると、まるで自分もピアノを弾いているかのような一体感を覚えた。』(M.A)
対策4.前年の議会議場の使用について議決を得ていたため容易に許可がおりた。前回の経験からピアノを議場中央にセットしたことによりバランスよく響く空間が生まれた。
第5回.2002.1.18.川口交流体験館.入場者93人
2002.1.19.川口中1年.62人
宇賀地小5年.33人
戸田弥生(バイオリン)渡部僚子(ピアノ)
サラサーテ「チゴイネルワイゼン」他
ー夜の闇の彼方から、バイオリンが、雪のように、夢のようにー
『冒頭から若々しくエネルギー溢れる演奏。フレーズの間には、声楽家が呼吸をとるかのように、スーッと大きく息をされていた。それはまるでストラディヴァリウスに命を吹きこんでいるかのように見えた。』(M.A)
対策5.交流館はステージから天井の高い客席にピアノを移動し、音響反射床にセット、そして音響反射板を後に設え、ピアノの音色が天井から降り注ぐ響きに生まれ変わりました。
第6回.2002.1.28.宮柊二記念館.参加者54人
2002.1.29堀之内小6年.77人
入広瀬小5.6年32人
堀了介(チェロ)山口泉恵(ピアノ)
シューマン「ファンタジー・シュトック」他
ーチェロの不思議な力、人をいやし、心を休め…。
『シューマンの「幻想小曲集」では、実に魅惑的な音色で自由に躍動する音たちが私たちの心をもおどらせた。絶妙なタイミングで堀さんをフォローする山口さんのピアノ。オーケストラの響きを凝縮したような厚みがあり、それでいて色彩感溢れるサウンドに魅了された。』(M.A)
対策6.昨年は会場温度調整で失態したことから開演直前まで暖房を効かせ開演と同時にスイッチを切るなど工夫します。比較的に上手くいき、音響反射床と音響反射板の効果から心地よく響きました。
〜フランス・ガラ・コンサート「ソリストたちが奏でるフランス音楽の花束」〜
演奏会2002.2.17.小出郷文化会館大ホール.
入場者336人
弘中孝(ピアノ)久保陽子(バイオリン)藤原浜雄(バイオリン)中村静香(バイオリン)店村眞積(ヴィオラ)村上淳一郎(ヴィオラ)堀了介(チェロ)長谷部一朗(チェロ)星秀樹(コントラバス)白尾彰(フルート)山本正治(クラリネット)秋田円美(パーカッション)山口泉恵(ピアノ)花穂まりあ(語り)
◆ミヨー作曲
「二台のピアノのためのスカラムーシュ」より
◆フォーレ作曲
「ドーリー」
◆サン=サーンス作曲
組曲「動物の謝肉祭」
ー 休憩 ー
◆サラサーテ作曲
「ナヴァラ」
◆フランセ作曲
「ヴァイオリン・ヴィオラ・チェロのためのトリ オ」より
◆プーランク作曲
音楽物語「子象のババール
宮澤敏夫プロデューサーは電話一本で日本トップアーティストを一瞬にマネージメント、恐れ入りました。
〜成果と課題〜
○サロン・コンサートに入場した人の半数は、クラシック音楽の熱心なファンではないようです。その人たちにクラシック音楽を提供できた意義は大きい成果です。
○サロン・コンサートの失態や経験からノウハウが蓄積され、少しずつ多様なケースに対応ができるようになります。
✖️サロン・コンサートや学校訪問コンサートはガラ・コンサートへの集客に大きく結びつくことはなく、アウトリーチからツモにいたりませんでした。クラシックファン層の拡大に向けて、継続し工夫する必要があります。
〜アウトリーチからのご褒美〜
小出郷文化会館は文化庁の「文化のまちづくり事業」1年2,000万円5年継続1億円に及ぶ事業財政支援を受けています。
この支援により小出郷文化会館の礎づくりができます。しかし、国の財政支援がなくなった後はどうするかという大問題を抱えていました。
小出郷広域組合が会館の事業のための予算(税金)は、初年度が500万円、二年目に700万円、三年目以降は900万円で推移しています。
私は月に一度開催される理事会(6町村長会議)に出席しています。会館の活動報告をしつつ、文化庁助成が終了する現況をその都度丁寧に説明します。
小出郷全域に文化活動を届けるアウトリーチ事業について、入広瀬村の野外ステージフェステバルや守門村の目黒邸、議会議場コンサートについて語ります。
一番心配していました須佐入広瀬村長はオープン当時とは180度変わり、会館に対して協力的な意見を述べて応援してくれます。してやったりです。
また、文化事業に理解がある野村守門村長は議会議場コンサートに足をはこび、傍聴席に議長や議員を案内するなど満足そうに鑑賞しています。
町村長からの評判良く、広神村長は神湯温泉倶楽部、湯之谷村長は役場庁舎、堀之内町長は宮柊二記念館コンサートを評価して大変喜んでくれました。
理事会(6町村長)はオープン時の予算の3.3倍の1,650万円を承認。合わせて5周年記念事業200万円も上乗せしてくれました。崖っぷちの大問題は、アウトリーチからのご褒美で解決します。
小出郷文化会館はアウトリーチから思いもしない事業財源をツモったのでした。
14年度以降はクラシックのみならず、童謡や昭和歌謡などの福祉施設慰問コンサートやジャズのサロンと学校訪問コンサートからのツモ(野外jazzフェスティバル)事業に発展します。
つづく
追記
芸術文化におけるアウトリーチの実施主体としては、劇場、ホール、美術館といった文化施設や 芸術家・芸術団体などが挙げられます。
(財)地域創造の調査結果によると、実際に実施されているアウトリーチは、「体験・創作型ワークショップ事業」や「子ども、青少年、親子向け鑑賞事 業」「地域派遣型事業」が多く行われています。
子どもたちに対するアウトリーチ活動は、教育的効果及び将来の観客としての育成として、一般市民向けの場合は顧客開拓、さらに、高齢者施設や病院等、ホールや美術館等の文化施設 に足を運べない人々を対象とする場合には、精神的癒しや症状の緩和というような意義があります。
一方、芸術家自身にも大きく刺激を与えることができます。このように、アウトリーチ活動は、芸術文化を享受する層を広げると共に、創作する側の創作意欲を高めることに寄与しています。
このことを通して、芸術文化が社会に果たす役割を拡大し、日本の芸術文化をより豊かなものに発展させる可能性を秘めているといえます。
文化施設・芸術団体等がアウトリーチ活動を行うに当たっての課題としては、地域社会内外の様々な機関との結びつきを深めていくことが挙げられます。
さらに、芸術文化が様々な社会的課題の解決のために、どのように役に立つのか、という視点に立って芸術活動を展開していくことも重要です。
このように、様々な社会的課題の解決をも視野に入れたアウトリーチ活動は、文化政策面でのニーズと社会政策面でのニーズを結び付ける接点として位置づけることができるでしょう。
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