アウトリーチからの新たな広がり
アウトリーチの第一人者、吉本光宏さん曰く、最近各地の公立ホールや美術館、芸術団体は、公演や演奏会、展覧会とは違う形で、市民や地域に芸術を提供するアウトリーチ活動に取り組み始めています。
子どもや障害者、高齢者向けのプログラムなど、その内容は多岐にわたりますが、平成14年の学習指導要領の改訂を視野に入れ、アーティストを学校に派遣するNPOも登場します。
子ども向けのアウトリーチ活動はとくに活発化しており、芸術の新たな社会サービスの可能性を模索する動きとして注目されています。
小出郷文化会館はこれまでは地域でのサロンコンサートや教育現場の学校訪問コンサートを展開していますが、マンスリーレジデンス事業から新たなアウトリーチが生まれます。
首都圏にある舞台芸術団体にホールを制作現場として提供することにより、その制作過程を地域住民に公開してもらうマンスリーレジデンス事業を小出郷文化会館はオープンから展開しています。
平成8年は京楽座による中西和久ひとり芝居「山椒大夫考(平成8年6月15日〜30日)」、平成9年は青山子どもの城メンバーによるバッハの音楽遊園地「ザ・カーニバル(平成9年5月14日〜18日)」です。
その一環として平成10年、県内3公立ホール共同企画ミュージカル「ファンタスティック」(制作日:4月21日〜7月10日)に出演したルイザ役の加来陽子さんとの出会いがあります。
昨年の「ファンタスティック」が好評を博したことから加来陽子さん出演の「ブルーストッキングレディース」(制作:平成11年7月25〜9月8日)を翌年も開催します。
このような中、加来陽子さんの愛好者がファンクラブを発足、会館の友の会は主催のコンサートも開催しています。このミュージカルの制作プロデューサー橘市郎さんと共に交流が深まっていきます。
平成11年の晩秋、橘さんの事務所にお礼に伺います。すると、ミュージカル女優の加来陽子さんの日本の歌を小出郷文化会館で制作したいと願ってもない提案があります。
橘さんは音楽・演劇プロデューサー、早稲田大学演劇専修コース卒業。東宝(株)と契約し1973年にプロデユーサーとなります。
1981年独立後は、企画制作会社アンクルの代表をつとめ、中野サンプラザからの委嘱で「ロック・ミュージカルハムレット」「原宿物語」「イダマンテ」を制作。
会社解散後は「ファンタステイックス」「ブルーストッキングレデイース」などのミュージカルなどを制作。
2001年京都芸術劇場の初代企画運営室長、2007年テアトロジーリオショウワ初代運営室長。2014年、春秋座顧問プロデューサー、日本文化藝術財団理事などを歴任しています。
橘さんと意気投合、私から日本の歌を制作したら、魚沼地域の特別特養施設で慰問コンサート(社会包摂型アウトリーチ)を企画したいと提案します。
現在は地域(サロン)や学校(教育機関)でアウトリーチをしていることから、新たに福祉施設などへの社会包摂的なアウトリーチを考えます。
「しかし財源が無いしなぁ〜」と悩んでると、橘さんから(財)石橋財団(ブリヂストン)がこの企画に見合った助成金を募集していると情報を得ます。
ブリヂストンのCM「♪どこまでも行こう道は厳しくても…」を口ずさみながら…一か八かと思い『心のふるさとふれあいコンサート』を申請します。
平成12年、企画申請が認められ助成金250万円が決定!日本の歌を制作して小出郷域の特別養護施設と交渉して慰問コンサートを開催します。
『心のふるさとふれあいコンサート』はミュージカル女優でソプラノ歌手の加来陽子さんとギターリストの西野雅人さんのユニットでの公演です。
施設は寿和ホーム(入広瀬村)守門健康センター(守門村)美雪園(広神村)南山荘(湯之谷村)うかじ園(堀之内)本田病院(小出町)県立養護学校(新潟県)と小出郷文化会館小ホールです。
加えて翌年1月27日、宮柊二記念館で地域サロンコンサートも開催します。堀之内町長も参加してくれます。
福祉施設では加来さんの透きとおった心温まる歌声は施設の利用者の心の奥深く響きます。
手拍子をして微笑んだり、懐かしい歌を口ずさんだり、涙をいっぱいためながら、幼い頃を思い出したりとアットホームな時間が生まれます。
この年のアウトリーチはクラシックが12公演、日本の歌は9公演の計21公演と実りある取り組みとなり、私なりに手答えを感じていました。
平成13年は、あおりの里(川口町)八色園(大和町)小栗田の里(小千谷市)小出郷文化会館小ホール(小出郷)で隣接市町でも開催します。
更には、新潟県公立文化施設統一企画事業として、中条愛広宛.マチュアハウス中条.中条町産業文化会館(中条町)佐渡中央文化会館.河原田小学校.佐和田小学校(佐和田町)と県内ツアー公演に広がりました。
橘さんから新たな提案があります。コンサートを重ねる度に歌とギター演奏のクオーリディが上がったとして、CDを制作したいと熱い要望があります。
「会館でのCD制作はおもしろいですが予算はどうしよう」橘さんは「有志でお金を出資して実行委員会体制で運営したらどうでしょう」「分かりましたやりましょう。」と賽は投げられました。
橘さんと編曲を担当する清水義文さんと私と数人で出資します。でもレコーディングする機材がないとCD(ミックストラックダウン)ができない…
ちょうどその頃YAMAHAから新発売のコンパクトなレコーディングミキサーAW4416が発売されます。これはレコーディング・編集・ミックス、そしてCD制作まで。この1台で全て完結できる優れものです。
これは私のポケットマネーで買うことにして、何とか実現に漕ぎ着けます。小出郷文化会館の練習室1.2をレコーディングスタジオに使用、加来さんと西野さんのレコーディングが始まります。
編曲担当の清水さんがミックストラックダウンをなんなくこなします。流石プロです。クオリティが高いCD『加来陽子が歌う日本のうた』が完成したのでした。
アルバムのジャケットは会館の日本画講座の田中博之画伯が引き受けてくれて、日本の歌に相応しいデザインになります。来年からのコンサートで販売することにします。
平成14年、中条や佐渡に加え京都からもオファーがあり、心のふるさとふれあいコンサートツアー2002(CD販売あり)がスタートします。
京都芸術劇場.保津小学校.稗田野小学校(京都)きのと小学校.築地小学校(佐渡)中条産業文化会館.やはたの里.待鶴荘(中条)南山荘.美雪園.寿和ホーム(小出郷)の11公演が無事に終了します。
当時は公共ホールが制作した作品を県内外で公演することは稀有なことでしたが、このノウハウはのちに魚沼産⭐️夢ひかりのキッズミュージカルや魚沼産ジャズ講談の県内外公演に生かされていきます。
会館になかなか足を運ぶことができない子どもたちの笑い顔や特養施設利用者の喜んでくれる様子を見ているとたまらなく音楽を身近に届けたくなるのです。次はジャズのアウトリーチに挑戦します。
つづく
付録
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